けんぽの部屋
2023年11月14日
「11/14は何の日?」から始めて 健保常務理事 篠原正泰

 

■11/14って何の日?

 突然ですが、今日11/14は何の日かご存じですか?
 実は、「世界糖尿病デー」という日です。(※1)
(一年には病名の記念日が何日かあって、例えば5/17は「世界高血圧デー」、10/29は「世界脳卒中デー」があったりします)

 11/14は国連が2006年に認定した「糖尿病の日」ということで世界160か国から10億人以上が参加する有数の疾患啓発の日となっています。

 なぜこの日が「世界糖尿病デー」となったかというと、その日が糖尿病治療に画期的進歩をもたらしたインスリン(※2)を発見したカナダ人医師(フレデリック・バンティング)の誕生日だったから。

 この日の運営をになう記念日委員会(※3)というものがあって、その運営規約に糖尿病デーを設定した目的が書いてあるのですが、印象的な言葉が<…糖尿病の全世界的脅威を認識する…>です。

 要するに“全世界的脅威”という言葉を使わねばならないところにこの疾病の広がりと合併症を発生させる根深さ、そして対策を急いで打っていかねばならぬ緊急性が盛り込まれているのだと思います。

 

■糖尿病の状況とは

 いま、日本では糖尿病の人は増加の一途をたどっていて、その数は約1000万人、そして糖尿病予備軍(正しくは「糖尿病をの可能性を否定できない人」)もまた約1000万人もいます。合計2000万人で、日本人の6人に一人は予備軍を含む糖尿病ということになります。

われわれの健保の中でも調査してみたところ、2022年度では糖尿病/腎不全(※4)項目で18億円(富士フイルムグループ健保)もの医療費がかかっていることがわかります。
2018年度との比較でいうと、糖尿病項目はほぼ横ばいですが、腎不全項目は、約10%減ったことになっています。現段階ではコロナ禍の影響も排除できないのでもう少し慎重に見ていく必要があるかと思っているところです。
かかった患者さんの数は2022年度実績で延べ17000人を超えています。

得られる周囲にあるデータを調べてみると270健保(加入者700万人)平均で2022年度は糖尿病/腎不全で、ひとりあたり717千円/年もかかっています。

 糖尿病は、最初はその自覚症状に乏しく、重症になってから初めて気づくケースが多い。
重症になると失明などの重篤な合併症を引き起こす場合もある気を付けないといけない病気であることは良く知られています。
一方で検診を行うことによって糖尿病の発症リスクを減らすことも可能なのです。

 11/13神奈川新聞のトップ面に、神奈川県が糖尿病対策の進捗状況を発表したとの記事がでていました。(※5)
県が提唱する未病改善の考え方を取り入れ、糖尿病リスクのある人に早期の受診を働きかける仕組みを整備した2017以降、糖尿病性腎症で新規に人工透析を始めた患者さんの数の減少傾向が全国平均の▲6%を超える▲13%と顕著であったというものです。
 糖尿病性腎症のリスクがありながら、未受診だったり治療を中断したりした人に受診を勧めた結果だといい、受診勧奨の重要性を説いています。

 大事なことだと思いますし、健保も事業としてこれを展開しています。

 

■糖尿病のもうひとつの話題

 実は「糖尿病」には昨今もうひとつの話題があります。
 「糖尿病」という病名を見直そうという動きです。

 「『糖尿病』 は“尿に糖がでる病気”なのに先生はなぜ、尿検査より血液検査の話ばかりするんですか」
 こんな質問が、患者さんからお医者さんにしばしば投げかけられるそうです。
糖尿病は血中の「糖」が重要なのに「尿」が病名に入ってしまっているので、あらぬ誤解を呼んでいる“難あり”病名のようです。

 「糖尿病」を少し調べてみると、2世紀のころ、カッパドキア(現トルコ)生まれのアレタウスという人が、「大量の水を飲むのに、排尿が多いために体内に水がとどまらない」病気として、ギリシャ語の「サイホン」を意味するDiabetes(現代英語でも「糖尿病」を意味する。発音はダイアビーティーズ)と命名したのが始めだったようです。

 その段階では「多尿」という意味しかなかったわけですが、18世紀になってカレンという研究者が「多尿」症状がある別の病気と区別するため「ハチミツのような」という意味のラテン語(mellitus)をそれに付して広まり、明治時代には日本でも「糖尿病」と呼ばれるようになりました。

 いま糖尿病学会ではこの歴史ある病名の改名議論が進められています。
「改むるに憚(はばか)ることなかれ」の姿勢は素晴らしいと思います。

 実は「糖尿病」患者の3人にひとりは「糖尿病であることを恥ずかしく感じた経験がある(※6)」とある報告で伝えられています。
 そのような人は、精神的苦痛を感じており幸福感も感じにくく、糖尿病患者本人のQOL(生活の質)にも影響を与えているといわれます
むろん、それが治療上も好ましくないことは言うまでもありません。
 
 正しくかつ斬新で良い名前が選ばれることを個人的には期待しているところです。

 

■終わりに

 11/14の世界糖尿病デーを中心して、日本では全国糖尿病週間(11/12-18)として数々のイベントが行われます。
 東京都庁などをはじめとして日本各地の病院やオフィス・鉄塔などの建物がイメージカラーのブルーでライトアップされます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ぜひ、その「青い」光を見たら、世界でこの病に苦しんでいる、また治療に専念している患者さんたち、そしてその医療提供を行っている方々に思いを馳せ、また人生100年時代に向けてのご自身における糖尿病とはを考えてみてはいかがでしょうか。

 その青い色―――もしかしたら糖尿病と対峙する人類の希望の大海原の色なのかもしれません。

 

 

(※1)糖尿病

血糖値(血液中に含まれるブドウ糖)が慢性的に高くなる病気のこと。1型と2型がある。世界の糖尿病の95%は生活習慣病が原因と言われる2型と言われる。

(※2)インスリン

人の体は血糖値を一定に保つためにインスリンというホルモンが膵臓で作られている。血液とともにあるブドウ糖は筋肉などに送り込まれ、いわばインスリンが“筋肉細胞のドアを開ける鍵”のような役割を果たして細胞内に取り込まれる。このことで、血中のブドウ糖は一定に保たれる。(細胞に取り込まれたブドウ糖はエネルギーになる)このインスリンが膵臓の機能低下により十分に作られなくなる場合、また、インスリンが十分だけれど力を発揮しにくくなる状態に、ブドウ糖は血中に必要以上に存在し続けることとなる。

(※3)世界糖尿病デー実行委員会

(※4)社会保障用疾病中分類コード402糖尿病+1402腎不全

(※5)神奈川県と県糖尿病対策推進会議が11/9に共同発表

(※6)2022.12.13BMJ Open Diabetes Research&Care
 神戸市立看護大学看護学部・稲垣聡氏・糖尿病内科まつだクリニック松田友和氏ら横断研究