横浜みなとみらい健康管理室の児玉です。実家は石川県能登地方にあり、令和6年奥能登地震と9月能登半島豪雨に遭いました。体験した両親の話ですが、この場を借りてお伝えしたいと思います。
令和6年元日の午後2時頃、父は輪島市にある曽々木海岸で48㎝程のクロダイを1枚釣りあげ、山小屋の薪ストーブに火を入れてさばき始めた直後だったそうです。どーんと突き上げるような衝撃の後、エンジンを切っているはずの車が動き出すほど地面が揺れました。強い揺れの中、父は自宅の母が屋根の下敷きになったと思ったそうです。慌てて電話をかけてもつながらず、帰宅を急ごうにも山崩れでいつもの道は塞がれ、迂回した先は亀裂や陥没で容易に車が通れません。父は道路の亀裂を避けつつ、立ち往生している車を誘導しながら、普段は10分程の帰路を2時間以上かけて帰宅しました。母は揺れの直後、「屋根が落ちる」と外に飛び出しており無事でした。私がこの話を電話で聞くことができたのは地震から1週間後、電気が復旧してからでした。
真冬の能登は日中温かくても4~5℃で、夜にはマイナスになる日もあります。天気は曇りや雨の日が多く、日照時間がとても少なくなります。このような環境で断水と停電が続いた被災生活は、健康な両親でも体調管理が難しかったようで、度々風邪を引いていました。実際、被災した方の死因の約6割が「圧死」「窒息・呼吸不全」の中で「低体温症・凍死」が1割強もあったことは、真冬の災害のもう1つの怖さだと思います。
能登の人たちの忍耐強さと周囲からの支援とで、なんとか生活を取り戻しつつあった矢先に9月の記録的大雨です。3日間で平年9月降水量の2倍の雨が降りました。本当に「バケツの水をひっくり返すような雨」だったそうです。父は家の前の道路にゴロゴロと砂利を含んだ泥水が流れてきて初めて「このままでは危ない」恐怖を感じたと言います。水位はふくらはぎあたりだったそうですが、歩こうにも足元がすくわれ歩くことができず、車の扉を開けようにも水圧で簡単には開きませんでした。雨が上がり、水が引き始めてほっとしたのもつかの間、被害の様子が少しずつわかってきました。輪島市内で住宅が土砂で流されたというニュースが流れたほか、釣りでよく行っていた地域にある高齢ご夫婦の住む家が土砂に埋もれた話を聞きました。また、知り合いが泥水で道路か川か判別できなくなって立ち往生し、通話しながら車外の様子を見に出たところ連絡が途絶え、立ち往生した場所よりずっと川下で見つかったという話も聞きました。土砂災害では逃げようにも逃げられない状況になり、どんなに怖かったかを思うと、両親は地震の被害よりも豪雨での被害がより深刻に感じたと言います。
2024年の年末に帰省した際、地震と豪雨の影響で通行止めとなっていた道路が概ね復旧し、ようやく奥能登一周できるようになっていました。とはいっても、まだまだ仮設道路、緊急車両・工事車両が優先される道路もありますし、風光明媚な絶景ポイントがいくつも
あった能登の海岸線は、地震と土砂災害の痕を残しています。父は趣味の釣りをしたいけれども、磯から糸を垂らす気持ちにならないと言います。私も、いたるところの崖が崩れ大きな岩がいくつも転がり、海底がむき出しになった風景を見て、海遊びの楽しかった思い出が消えたような、さみしい気持ちと自然への畏怖を感じています。
そんな傷跡が生々しい能登地方ですが、いたるところで県外のゼッケンを着け作業をしてくださっている方々を見かけました。今も白い大きなテントで寝泊まりし、ボランティアをしてくださっている方々がいらっしゃいます。全国の皆様の支援を得てゆっくりゆっくり復旧が進んでいることを実感し、遠く離れたところで心配しかできない私もとても勇気づけられました。
国土交通省能登復興事務所は、能登半島地震で被災した国道249号を中心に「絶景海道」を整備する方向のようです。まだ能登の宿泊施設はお客様を迎えられる状態ではないところが多いのですが、もう少し。季節が良い頃にぜひ能登へ観光にいらしてください。大変な出来事にもじっと耐え、生活を続けている人のしなやかさを感じていただきたいし、能登の豊かな海・山の幸を楽しんでもらえたらと思います。
写真①
㋐ここで釣りをしていました。㋑この先黄色の〇はトンネルがあった場所。地震で土砂に埋まりました。㋒地震前は黄色線が水面でした。海底が隆起し、港の海底が見えています。(2024年4月末撮影)
写真②
震源地付近の岩場。干潮でないと渡れなかった岩場が露出していました。以前は黄色線までが水面でした。(2024年12月末撮影)
写真③
豪雨の土砂災害。急峻な山の斜面が土砂崩れを起こし、家屋や車が海岸側に移動しています。(2024年12月末撮影)
写真④
輪島市千枚田付近の道路脇、まだ亀裂が入った状態です。(2024年12月末撮影)
写真⑤
土石流で大きな被害受けた箇所です。このような場所がいたるところにあります。(2024年12月末撮影)
参考文献・HP
・令和6年9月能登半島豪雨 道路復旧見える化マップ(閲覧日:2025/2/1)
URL:https://www.mlit.go.jp/road/r6noto/index4.html
・内閣府 防災情報のページ(閲覧日:2025/2/6)
URL:https://www.bousai.go.jp/kaigirep/hakusho/r06/honbun/t2_1s_02_00.html
・国土交通省 気象庁 低気圧と前線による大雨(閲覧日:2025/2/6)
URL:https://www.data.jma.go.jp/stats/data/bosai/report/2024/20241029/20241029.html
・宮本匠著:「みんな」って誰?世界思想社,2024.